二月二十日過ぎ、南殿の桜の花の宴が催された。源氏の舞や詩のみごとさは、人々の賛嘆の的であったが、それにつけても弘徽殿女御の憎しみはつのり、藤壷の宮の気持ちは複雑であった。
 宴果てたその夜更け、春夜の月の風情にさそわれて、酔心地に藤壷の近くを徘徊していた源氏は、たまたま開いていた弘徽殿の細殿に忍び入った。折しも、あでやかな声で「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさみながらこちらにやって来る女がある。源氏が興をおぼえてその袖をとらえると、女は、おびえながらも、相手が源氏と知って心を許す様子である。ほどなく夜の明ける気配に、相手の名前も聞けぬままに扇をしるしに取り交わしてあわただしく別れたが、後にその女が弘徽殿女御の妹であるらしいことを知り、源氏の心は再会の困難さを思って動揺するのであった。
 翌日、源氏は内裏から退出したが、紫の上は日増しに美しく成長してゆく。それにひきかえ正妻葵の上との冷たい関係は相変わらずである。
 東宮の妃としてこの四月にあがる予定の右大臣の六の君(朧月夜)は、源氏とのはかなかった逢瀬を思い、人知れず物思いに沈んでいた。三月の末、源氏はたまたま右大臣の催す藤の花の宴に招かれた。酔いに紛れて先夜の扇の主を捜すと、答えはなく、ただ時折ため息をつく女がいる。源氏の歌いかけに、返歌をする声は、まさしくその人であった。

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