(この巻は「若紫」巻と同時並行の巻であり、「若紫」巻が「桐壷」巻を受けるのに対して、「タ顔」巻を受ける。)

 源氏は、その死への哀惜に堪えなかった夕顔のごとき女性に再び出会いたいと切に願っていたが、その願いに引寄せられるかのごとく物語世界に登場したのが末摘花の姫君である。彼女は故常陸宮の遺児であり、荒廃した邸にただ独り、時勢に置き去られたようにして住む古風な姫君であった。源氏が現実日常のくびきから自己を解放するよすがとして世離れた高貴な女性との連帯を願ったのも無理からぬことであったといえよう。大輔命婦の手引きによって言い寄った源氏は、途中から頭中将が同じく懸想人として加わったこともあって、いよいよ情熱を駆立てられ、これに競い勝って、ついに逢瀬を遂げたのだが、しかしながら、この姫君は意外にもなみはずれた醜女なのであった。
 源氏が末摘花と契りを結んだのは八月二十日であったが、彼女の全貌のはっきりと見露わされたのは雪の降りつもる朝であった。

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